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千葉地方裁判所 昭和34年(ワ)235号 判決

判   決

原告

桜井憲子

原告

桜井晴一

右原告両名

法定代理人親権者父

桜井泰治

桜井ハル

原告

桜井泰治

原告

桜井ハル

右原告四名

訴訟代理人弁護士

松本栄一

鈴木信一

被告

千葉県

右代表者知事

柴田等

右指定代理人

千葉県土木本部管理課長

大野金三郎

千葉県事務吏員

島村正一郎

右訴訟代理人弁護士

鈴木紀男

柴田茲行

右鈴木紀男

訴訟復代理人弁護士

千場茂勝

佐藤文彦

武子暠文

右当事者間の、昭和三四年(ワ)第二三五号損害賠償請求事件について、当裁判所は、次の通り判決する。

主文

一、被告は、原告桜井憲子及び同桜井晴一に対し、金九、〇二〇円及び之に対する昭和三四年一〇月一七日からその支払済に至るまでの年五分の割合による金員を支払わなければならない。

二、被告は、右原告両名の各自に対し、金五、〇〇〇円及び之に対する昭和三四年一〇月一七日からその支払済に至るまでの年五分の割合による金員を支払わなければならない。

三、被告は、原告桜井泰治及び同桜井ハルの各自に対し、金一〇、〇〇〇円及び之に対する昭和三四年一〇月一七日からその支払済に至るまでの年五分の割合による金員を支払わなければならない。

四、その余の原告等の請求は、全部、之を棄却する。

五、訴訟費用は、之を三分し、その二を原告等四名の連帯負担、その余を被告の負担とする。

六、本判決は、第一項乃至第三項について、仮に、之を執行することが出来る。

事実

原告等は、

被告は、(イ)、被告桜井憲子に対し、金三六、八四〇円及び之に対する本件訴状が被告に送達された日の翌日から年五分の割合による金員を、(ロ)、原告桜井晴一に対し、金三六、二八〇円及び之に対する右同日からその支払済に至るまでの右と同一の割合による金員を、(ハ)、原告桜井泰治及び同桜井ハルの各自に対し、金二〇、〇〇〇円及び之に対する右同日からその支払済に至るまでの右と同一の割合による金員を、夫々、支払わなければならない、訴訟費用は被告の負担とする旨の判決並に仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、原告憲子(当時一一歳)は、昭和三四年六月二一日午後一時頃、弟の原告晴一(当時一〇歳)を相乗させて、自転車に乗り、千葉市汐見丘町小川建材店前附近の十字路の東西に通ずる道路を東方から西方に通り、右十字路を同方向に通抜けようとしたところ、右十字路の南北に通ずる道路を北方から南方に向けて走行して来た訴外佐久間末吉の運転に係る被告保有の自動車千た―〇一二九号ジープ(但し、被告県の工業用水道建設事務所に所属して居たもの)に衝突されて、右原告両名は、附近の溝の近くまではね飛ばされ、その結果、右原告憲子は、全治までに約四〇日を要した右手挫傷、右第五手骨々折、右肩腰部擦過傷等の傷害を受け、又、右原告晴一は、全治までに約三〇日を要した右下腿打撲血腫、右肘部挫傷等の傷害を受けた。

二、而して、この為め、

(イ)、原告憲子は、

(1)  汐見丘病院に通院して、治療を受け、その費用として、金二、〇〇〇円を支払い、

(2)  右通院の為め、(通院八日間、自宅、汐見丘間日往復金四〇円)、交通費として、金三二〇円(訴状に金三〇〇円とあるは誤記と認める)を支払い、

(3)  近隣親戚に対する見舞の返礼費として、金二、五〇〇円を支出し、

(4)  右治療の為め、授業不能となつた学課の補習費として、(家庭教師費用)、金一、〇〇〇円を支出して、

計金五、八二〇円(訴状に金六、八四〇円とあるは誤記と認める)の損害を蒙り、

(5)  更に、右傷害を受けたことによつて、精神上の苦痛を蒙り、その損害の額は、金三〇、〇〇〇円と算定するのが相当であるから、

結局、合計金三五、八二〇円(訴状に金三六、八四〇円とあるは誤記と認める)の損害を蒙つて居り、

(ロ)、原告晴一は、

(1)  汐見丘病院に通院して、治療を受け、その費用として、金一、七六〇円を支払い、

(2)  更に、池田病院に於て、治療を受け、その費用として、金四〇〇円を支払い、

(3)  通院の為めの交通費として、(原告憲子の場合と同様)、金三二〇円を支払い、

(4)  見舞の返礼費として、(右と同様)、金二、五〇〇円を支出し、

(5)  学課の補習費として、(右と同様)、金一、〇〇〇円支出して、

計金五、九八〇円(訴状に金六、二八〇円とあるは誤記と認める)の損害を蒙り、

(6)  更に、右傷害を受けたことによつて、精神上の苦痛を蒙り、その損害の額は、金三〇、〇〇〇円と算定するのが相当であるから、

結局、合計金三五、九八〇円(訴状に三六、二八〇円とあるは誤記と認める)の損害を蒙つて居り、

(ハ)  原告泰治、同ハルは、右原告両名の父母であつて、右原告両名が前記傷害を受けた為め、日夜心痛して、精神上の苦痛を蒙り、その損害の額は、各自、金二〇、〇〇〇円と算定するのが相当であるから、右原告等は、各自、金二〇、〇〇〇円の損害を蒙つて居る、

ものである。

三、然るところ、前記自動車は、被告がその保有者として、自己の為め、之を運行の用に供して居るものであるから、被告は、原告等の蒙つた右損害の賠償を為すべき義務がある。

四、仍て、被告に対し、右各損害の額に相当する金員及び夫々に対する本件訴状が被告に送達された日の翌日からその各支払済に至るまでの民法所定の年五分の割合による損害金の支払を命ずる判決を求める。

と述べ、

被告の主張に対し、

右衝突事故の発生は、原告等の過失に基因するものであつて、被告には何等の過失もない旨の被告の主張は、之を否認する。

と答へ、

更に、原告憲子は、別紙見取図々示の位置にあるB道路を東方から西方に進み、同図々示の(ホ)点附近に於て、自転車を降り、原告晴一を乗せたまま、之に引いて、(ヘ)点附近に至り、同所で一旦停止し、左右を見て、同図々示の位置にあるA道路の左右から進行して来る車のないことを確めた上、再び自転車に乗つて、同方向に進行し、同図々示の(ハ)点附近に来たところ、被告の自動車が右A道路を北方から南方に時速約七〇キロで進行し来つて、同図々示の(ロ)点附近で、ハンドルをやや右に切りつつ、右自転車の前面を横切つた為め、右(ハ)点附近で、右自転車の前輪が右自動車の左後輪に衝突し、前記事故の発生を見るに至つたものであるから、過失は、被告側にあるものである。

と主張し、

尚、原告憲子等が乗車した車は、大人用の軽快車であつて、右原告は、原告晴一を後荷台に乗せて相乗し、又、訴外佐久間末吉は、被告に雇われて居た運転者である。

と附陳し、

立証≪省略≫

被告は、

原告等の請求を棄却する、訴訟費用は原告等の負担とする旨の判決を求め、答弁として、

一、原告等主張の日時、場所に於て、原告憲子及び同晴一が相乗して居た自転車と訴外佐久間末吉の運転して居た原告等主張の自動車とが衝突したこと、及び右自動車が被告の所有であることは、共に、之を認めるが、その余の事実は、全部、不知。

二、右衝突事故は、原告憲子が危険な相乗を為して、その運転を誤り、右自動車に接触した結果発生したものであり、又、子供の相乗は危険であつて、右の様な事故の発生する虞があるのであるから、親権者たる原告泰治、同ハルは、相乗を禁止するとか或は保護者をつけるとかの処置を為して、危険の発生を未然に防止すべき義務があつたに拘らず、之を為さず、その結果、右事故の発生を見るに至つたのであるから、過失は、原告等にあるのであつて、而も、前記自動車の運転を為した前記訴外佐久間末吉は、万全の注意を為して、その運転を為して居たものであるから、被告には何等の過失もなく、従つて、右事故の発生についての責任は、挙げて原告等側にあるのであるから、仮に、原告等にその主張の損害があつたとしても、被告に於て、その損害の賠償を為すべき義務はないものである。

と述べ、

原告等の再主張に対し、

被告の自動車は、原告主張のA道路を北方から南方に向つて進行し、別紙見取図々示の(チ)点に於て、速度を時速約四〇キロに減速し、原告等主張のB道路方面から人車の出て来るものは全然なかつたので、そのまま、進行し、同図々示の(ヌ)点附近に至つたところ、突如、右B道路から原告憲子、同晴一の相乗した自転車が進行して来た為め、同自転車は、右(ヌ)点附近で、被告の自動車の左後輪に衝突し、前記事故が発生するに至つたものであるから、過失は、原告等側にあつて、被告側にはないものである。

と主張し、

尚、原告憲子が運転した自転車が大人用軽快車であつて、同原告が原告晴一を後荷台に乗せて相乗して居たこと、及び訴外佐久間末吉が被告に雇れて居た運転者であることは、共に、之を争わない。

と附陳し、

立証≪省略≫

理由

一、原告泰治と同ハルが夫婦であつて、原告憲子がその長女、原告晴一がその長男であること、及び本件事故が発生した日であることについて当事者間に争のない日であるところの昭和三四年六月二一日当時、右原告憲子の年齢が満一二歳一月、右原告晴一の年齢が満一〇年六月であつたことは、原告本人桜井泰治の供述と本件訴状に資格証明書として添付提出された公文書である筆頭者桜井泰治の戸籍謄本とによつて、之を認定することが出来る。

二、原告等主張の日時頃、その主張の場所附近で、原告憲子が弟の原告晴一を後荷台に乗せて相乗して居た自転車(大人用軽快車)と被告の雇人である運転者訴外佐久間末吉が運転して居た被告所有の自動車(ジープ)とが衝突したことは、当事者間に争のないところである。

三、然るところ、右衝突事故が発生するに至るまでの経過について、原告等は、原告憲子は、原告等主張の位置に於て、一旦停車し、原告等主張のA道路に車の進行し来るものがないことを確めた上、進行したところ、被告の自動車が時速約七〇キロの速度を以て、その前面を北方から南方に横切つた為め、右原告憲子の運転して居た自転車は、右自動車の左後車輪に衝突するに至つたものであるから、右事故は、右自動車を運転して居た右訴外佐久間末吉が之を発生せしめたものである旨主張し、被告は、運転者訴外佐久間末吉は、被告主張の位置に於て、原告等主張のB道路から車の出て来ないことを確めた上、速度を時速約四〇キロに減速して、進行したところ、右原告憲子の運転して居た自転車が突如右B道路から進行して来て、右自動車の左後輪に衝突するに至つたものであるから、右事故は、右自転車を運転して居た右原告憲子が之を発生せしめたものである旨主張して居るので、按ずるに、検証の結果によると、本件事故現場及びその附近の状況は、別紙見取図に図示の通りであつて、A道路は舗装された県道、B道路は舗装されて居ない市道で、両道路は、右見取図々示の位置に於て、互に、十字型に交叉し、A道路は、現場附近の稍北方から現場附近にかけて、南方にやや傾斜し、両道路共、人車の往来は比較的少いこと、及び原告等主張の(ヘ)点附近からは、A道路の北方を見通すことが出来ること、従つて、若し、原告憲子が、右(ヘ)点に於て、A道路北方を見たとすれば、被告の自動車の進行して来ることを発見し得た筈であること、又、被告主張の(チ)点附近からは、原告等主張の(ヘ)点附近を見通すことが出来ること、(但し、右図々示の位置にあるD点附近には、生垣があり、更に、その(チ)点寄りには電柱があつて、(ヘ)点附近以東の見通を妨げて居るので、右(チ)点からは、右(ヘ)点附近以東のB道路上の状況は、之を見通すことが出来ないこと)、従つて、若し、被告の自動車が右(チ)点附近に進行して来た頃、右原告憲子運転の自転車が右(ヘ)点附近に出て居たとすれば、右自動車の運転者は、右自転車がB道路から進行して来て居ることを当然発見して居た筈であることが認められ、而して、(証拠―省略)を綜合すると、右自転車と自動車とが衝突した地点は、右見取図々示の(ヌ)点又は(ハ)点附近であつたこと、及び原告等主張の(ヘ)点は、右両地点に極めて接近した点であることが認められるので、原告憲子運転の自転車が右(ヘ)点附近を通過して右自動車と衝突するに至るまでの間の時間は極めて短時間であつたと云うべく、而して、右佐久間証人の証言によると、右自動車が被告主張の(チ)点附近を通過したときの速度は、時速約四〇キロであつたことが認められるので、その秒速は約一一メートル位であつたと云うべく、而して、この速度と検証の結果と右認定の事実とを綜合すると、右自転車が右(ヘ)点を通過した時刻頃に於ては、右自転車は右(チ)点の手前附近にまで達して居た筈であると認定するのが相当であると云うべく、而して、以上の諸事実によつて、之を観ると、右自動車が右(チ)点に達した時刻頃に於ては、右自転車を運転して居た原告憲子も、又、右自動車を運転して居た訴外佐久間末吉も、共に、双方の車を発見し、その双方が前記衝突地点に向つて進行して居ることを当然に認識して居た筈であると云わなければならないものであるところ、前顕(証拠―省略)とによると、右双方共に、右の事実を認識して居なかつたことが認められるので、双方共に、右事実を認識しないままで、その各車を運転進行し、その結果、前記認定の衝突事故の発生を見るに至つたものであると認定するのが相当であると認められる。

原告等は、原告憲子は、前記(ヘ)点に於て、一旦停車し、左右を見て、A道路に進行して来る車のないことを確めた上、進行を開始したと主張し、原告本人桜井泰治はその主張の趣旨にそう供述を為して居るのであるが、その供述は、検証の結果に照し、措信し難く、他に、右事実のあることを認め得るに足りる証拠はなく、又、被告は、被告所有の自動車の進行中、B道路から原告憲子運転の自転車が進行し来たつて、自動車に衝突した旨を主張し、右自動車を運転した証人佐久間末吉は、前記(チ)点附近から前記衝突地点附近に至るまでに、その前方に、前記自転車が進行して来るのを見かけなかつた旨証言して居るのであるが、検証の結果と前記自動車の速度とを併せ考察すると、右自動車が(チ)点附近を過ぎても、前記(ヘ)点附近に自転車が出て居なかつたとすれば、右自動車は、右自転車が、前記衝突地点に達する以前に、同地点を通過し、衝突事故などは当然発生して居ない筈であるから、右証人の右証言は措信し難く、他に、右被告主張の事実のあることを認め得るに足りる証拠はないのであるから、右双方の主張は、執れも、理由がないことに帰着する。

四、而して、右に認定の事実によつて之を観ると、前記衝突事故は、右自転車を運転した原告憲子と右自動車を運転した訴外佐久間末吉との双方の過失によつて、その発生を見るに至つたものであると云わざるを得ないものであるから、右事故の発生については、双方に過失があると認定する。然るところ、子供が大人用の自転車に相乗することは、よし、それが軽快車であるとしても、危険なことであつて、而も相乗して自動車の往来する県道を横切るとなれば、衝突その他の危険の発生する虞のあることは、多く言う必要のないところであるばかりでなく、前記認定の事実によると、県道であるA道路を横切るについて、左右に注視することを怠つたことが認められるので、原告憲子が当時満一二歳の少女であつた点を考慮しても、なお、その遇失の度合は、以上の点のあることによつて、高度であつたと認めざるを得ないものであり、又、右訴外佐久間末吉は、右県道であるA道路を自動車で多数回に亘つて往来したことがあつて、本件事故現場の状況を知悉して居り、従つて、B道路から人車が進行して来て右A道路を横断することのあることを知つて居たのであるから、その様な場合には、何時にても停車その他の処置をとつて、衝突その他の事故の発生することを未然に防止し得る様に措置すべきであつたに拘らず、その措置をとらず、而も、事前に於て、警笛の吹鳴すら為さなかつたことが前顕佐久間証人の証言によつて認められるので、右自動車を運転した訴外佐久間末吉の過失の度合は、以上の点のあることによつて、高度であつたと認めざるを得ないものであり、而して、以上の点を考慮して、双方の過失の度合を比較考察すると、その過失の度合は、同程度であつたと認定するのが相当であると認められるので、双方の過失は、その度合に於て、その程度を同じくするものと判定する。

又、原告本人桜井泰治の供述によると、その親権者である原告泰治及び同ハルは、子供の自転車の相乗が危険であることを知りながら、原告憲子が原告晴一と相乗することを禁止する措置をとらなかつたことが認められ、而も、右原告本人の供述によると、右事故発生の当時、右原告両名は、歯科医の許に歯の治療に通つて居て、右事故当日は、その為め、前記自転車を使用したものであることが認められるのであつて、この様な場合は、歯痛その他のことによつて、注意が自転車の運転以外に向く危険があるのであるから、自転車の使用の如きは、厳に、之を禁止すべきであつたに拘らず、その禁止を為さず、為めに、前記事故の発生を見るに至つたのであるから、原告泰治及び同ハルにも過失があつたと認定せざるを得ないものである。

更に、原告晴一は、原告憲子の運転する自転車に相乗し、その運転を原告憲子に委せ居たものであるから、同人が満一〇歳の少年である点を考慮しても、なお、原告憲子の過失について、同人と同一の責任を負わなければならないものと云わなければならないものである。

尚、満一〇歳乃至満一二歳の少年少女は、一般的に云えば、責任無能力者であると云わざるを得ないものであるから、それ等の者については、過失の有無の認定を為し得ないものであると云わなければならないものであるが、道路の通行については、それ等の者が通常の精神状態にある限り、一般責任能力者と同様の注意義務を負うて居るものと云うべく、これは、道路の通行は、子供と雖も日常常に之を行つて居るものであり、又、之を行うに要する注意義務の如きも極めて簡単であつて、子供と雖も容易に之を理解し得るものであり、而も、日常の子供の行動を見るときは、子供等が自然に之を理解し、その理解に基いて、その行動を為して居ることが知られるので、右の様に云い得るものであり、従つて、道路の交通については、子供と雖も、それが通常の精神状態にある限り、一般責任能力者と同様に、過失の認定を為し得るものと解するのが相当であると認められるところ、前記原告両名が通常の精神状態を有しなかつたものであることを認め得るに足りる何等の証拠もない本件に於ては、右原告両名に過失のあつたことを認定し得るものであると云わなければならないものである。

三、而して、前記自動車が被告の所有であること、及び前記運転者が被告の雇人であることは、当事者間に争のないところであつて、前顕証人等の証言によると、右自動車は、前記事故当日、被告県及びその土木部組合主催の野球大会の為め、右土木部の人々が、被告県の承認を受けて、之を使用して居たもので、右事故は、右大会場から、右土木部の者数名を乗車させて、野球用具の不足品を取りに行く途中に於て、発生したものであることが認められるのであるが、右事実によると、被告県は、唯、単に、右土木部の人々に右自動車の使用を許したに過ぎないものであることが認められるので、右自動車の使用権及びその運転者に対する権限は、被告から離脱して居なかつたものと云うべく、而も、それを使用した人々は、被告県の職員であるから、右当日に為された右自動車の運行は、結局、被告の為めに為されたものであると認定する外はなく、而も、その運転者に前記認定の過失があるのであろから、被告は、その保有者として、前記事故によつて、原告等が蒙つた損害の賠償を為すべき義務があると云わなければならないものであるところ、原告等にも前記認定の過失があるのであるから、その賠償責任の決定については、原告等の右過失を斟酌し得るものである。

仍て、その責任の割合について、按ずるに、原告憲子及び原告晴一に対する関係に於ては、過失の度合が相等しいものと認められること前記の通りであるから、右原告両名に対する関係に於ける被告の賠償責任は、損害額の半額であると認定するのが相当であると云うべく、又、原告泰治及び同ハルに対する関係に於ては、同人等の過失に前記原告等の過失が重なつて、前記事故の発生を見るに至つたものと認められるので、その過失の根源は、右原告泰治及び同ハルの過失にあると云うべく、従つて、過失の大半の責任は、同人等に帰しめらるべきものと解し得られるので、右原告両名に対する関係に於ける原告の賠償責任は、損害額の三分の一の額であると認定するのが相当であると云うべく、従つて、被告は、原告憲子及び同晴一に対しては、損害額の各二分の一を、又、原告泰治及び同ハルに対しては、損害額の各三分の一を、夫々、支払うべき義務のあるものである。

六、然るところ、

(一)  前記事故の為め、原告憲子が、右手挫傷、右肩及び腰部擦過傷、右第五手骨々折等の傷害を、原告晴一が、右肘部挫傷兼擦過傷、右下腿打撲血腫傷等の傷害を受け、

(イ)  その為め、右両名が汐見丘病院に通院して、治療を受け、その治療費として、合計金七、六二〇円の支払を為したことが、(証拠―省略)によつて認められ、

(ロ)  その後、更に、右両名が、池田外科医院に於て、治療を受け、その治療費として、合計金一、〇二〇円の支払を為したことが、(証拠―省略)によつて、認められ、

(ハ)  右原告両名が、右汐見丘病院に通院した期間は、右傷害の程度と右原告本人の供述とによつて、一〇日間であつたと認められるところ、この通院の為めに要した交通費は、右両名で一日金四〇円であつたことが右原告本人の供述によつて認められるので、右原告両名は、右通院の為め、合計金四〇〇円を支出したものと認められ、

(ニ)、右事故によつて原告両名が傷害を受けた為め、近隣、その他から、見舞品を受け、その返礼として、合計金四、〇〇〇円の支出を為したことが、右原告本人の供述によつて、認められ、

(ホ)   原告両名は、右傷害の治療に通院した為め、手芸、図工その他の授業を受けることが不可能となり、之を補う為めに、家庭教師を週三日宛、約一ケ月間雇入れ、之に報酬金五、〇〇〇円を支払つたことが、右原告本人の供述によつて、認められ、

以上の支出(この支出額合計金一八、〇四〇円)は、全部、前記事故の発生した結果によるものであるから、結局、原告憲子及び同晴一の両名は、右事故の為め、右支出した額と同額の損害を蒙つたものと云うべく、而して、被告の賠償責任が損害額の半額であることは、前記認定の通りであるから、被告は、右原告両名に対し、右損害額合計金一八、〇四〇円の半額金九、〇二〇円の支払を為すべき義務があり、

(二)  又、右原告両名が、右事故によつて傷害を受け、精神上の苦痛を受けたことは、多言を要しないところであるから、被告に於て、その慰藉料の支払を為すべき義務のあること勿論であつて、その慰藉料の額は、双方提出の証拠によつて認められるところの諸般の事情を考慮し、各自、金一〇、〇〇〇円と認定するのが相当であると認められるところ、被告の賠償責任が損害額の半額であることは、前記認定の通りであるから、被告は、右原告両名の各自に対し、右各慰藉料額の半額金五、〇〇〇円宛の支払を為すべき義務があり、

(三)  又、原告泰治及び同ハルの両名が、右原告両名の父母であることは、前記認定の通りであつて、右原告両名が前記事故によつて前記傷害を受けたことによつて、精神上の苦痛を受けたことは、之亦多言を要しないところであるから、被告は、原告泰治及び同ハルに対し、慰藉料の支払を為すべき義務のあること勿論であつて、その慰藉料の額は、右身分関係のあること、傷害の全治に至るまでの期間が比較的長期間であつたこと、その為め、子供の学業に至るまで心配せざるを得なかつたこと、及び双方提出の証拠によつて認められるところの諸般の事状を考慮し、各自、金三〇、〇〇〇円と認定するのが相当であると認められるところ、右原告両名に対する被告の賠償責任が損害額の各三分の一の額であることは、前記認定の通りであるから、被告は、右原告両名の各自に対し、右各慰藉料額の三分の一額金一〇、〇〇〇円宛の支払を為すべき義務がある。

七、以上の次第であるから、原告憲子及び同晴一の請求は、両名に対し、金九、〇二〇円の損害賠償金及び之に対する本件訴状が被告に送達された日の翌日であることが当裁判所に顕著な日である昭和三四年一〇月一七日からその支払済に至るまでの民法所定の年五分の割合による損害金の支払並に右原告各自に対し、金五、〇〇〇円宛の慰藉料及び之に対する右同日からその支払済に至るまでの右と同一の割合による損害金の支払を夫々求める部分の請求、原告泰治及び同ハルの請求は、同原告等各自に対し、金一〇、〇〇〇円宛の慰藉料及び之に対する右同日からその支払済に至るまでの右と同一の割合による損害金の支払を求める部分の請求は、執れも、正当であるが、その余は、全部、失当である。

八、仍て、原告等の請求は、右各正当なる部分のみを認容し、その余は、之を棄却し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言について、同法第一九六条を、各適用し、主文の通り判決する。

千葉地方裁判所

裁判官 田 中 正 一

現場見取図≪省略≫

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